中国系のシェアバイク「Mobike」と、ドコモ・バイクシェア系のサービスを比較して、自転車シェアリングサービスが「日本で失敗する理由」とする記事が公開されており、内容に疑問を感じる点が多かったので紹介。
自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由 | 丸川知雄 | コラム | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
記事中で紹介されている「事実で無い内容」は以下。
「ポートが1km以上離れている」のウソ
問題はこの「専用の置き場」がきわめて少ないことだ。置き場と置き場が1キロ以上離れていたりするので、「ラスト1キロ問題」の解決には役に立たない。
ドコモ・バイクシェアの自転車をレンタル・返却するためのポート(置き場)に関して、「ポートとポートが1km以上離れていたりする」としているものの、実際にポート同士が1km以上離れている例は極めて少ない。(ゼロでは無い)
■東京都6区(広域)のサイクルポート
上記のポートマップを見て、ポートとポートが「かなり離れてるなぁ」と思える区間の距離を計算してみると以下。
■江東区東部のポート
江東区東部のように、ポート同士が1km以上離れているエリアは存在はしている。
実際に「周囲1km範囲内にポートが存在しない」ポートを探してみたところ、6区合計で11のポートが該当した。検索条件および該当するポートは以下。
■集計方法・検索条件
(1)6区広域ポートマップから「近くにポートがない」ポートを目視で絞り込み
(2)最寄りポートまでの徒歩での移動距離をGoogle Mapsで経路検索
(3)最寄りポートまでの必要距離が1kmを超えるポートをピックアップ
■「最寄りのポートまでの距離が1km以上」のポート一覧
・江東区
H1-67.セブン-イレブン 江東亀戸9丁目店
H1-66.中川船番所資料館
H1-60.荒川・砂町庭球場西
H1-54.砂町文化センター
H1-42.江東区スポーツ会館
H1-62.扇橋一丁目公園南
H1-34.門前仲町駅
・新宿区
D7-01.下落合図書館
D7-03.中井駅北
D5-04.西戸山公園野球場
・港区
C4-02.白金台いきいきプラザ
・千代田区
なし
・文京区
なし
・中央区
なし
2017年9月16日時点で、広域実験に参加している6区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区)に設置されているサイクルポートの数は合計で312箇所。
このうち、徒歩1km以内に近接するポートが存在しないのは、わずかに11箇所(全体ポート数の3.5%)の計算になった。11箇所の大半は江東区東部と、新宿区の北西部で、現時点のサービスエリアの中では「隅っこ」のエリアと言える。
※集計方法に示した通り(1)の作業はポートマップを目視しての絞り込みなので、多少の漏れがある可能性はある。とは言え、多く見積もっても20箇所以下になる見込み。
冒頭で紹介した記事では、「専用ポートが極めて少ない」とし、その根拠として「ポート同士が1km以上離れている」ことを挙げているものの、「ポート同士が1km以上離れている」ことを理由として、ドコモ・バイクシェア系サービスが「ラスト1キロ問題」の解決に役立たない。と結論付けるのは現実に即した考察とは言い難い。
ただし、大多数のポートで「周囲1kmにポートがある」こと自体はそれほど重要ではなく、目的地の近隣や目的地方面にポートが無ければ、移動手段として便利な手段とは言い難い。
江東区東部や、新宿区の新宿駅周辺、牛込地区、皇居周辺、東京駅(八重洲口側)、銀座駅周辺など、ポートが設置されていない、あるいは密度が薄いエリアはいくつか挙げられ、この付近の移動手段ではドコモ・バイクシェア系サービスが不便なのは事実で、こういった「ポート空白地帯」が無くなるように、より多くのポート設置は今後期待したいところ。
反対に、都心部のポート密集地帯のポート間距離は以下。
■港区虎ノ門付近のポート
港区の例のように、密集エリアであればポート同士の距離が500m前後となっている箇所も少なく無い。
→実際に利用者が多いのは、ポート同士が密集しているエリアと思う。
ただし、都心部であっても皇居周辺や防衛省周辺についてはポートが設置されていないので、上記記事の筆者が言う「ポートが1km以上離れている」はこのあたりのことを意味している可能性も、ゼロではない。(詳細が説明されていないので不明。)
■皇居の内側にはポートが無い
■防衛省周辺にもポートが無い
「置き場所が何度も変わる」問題?
利用者がとても少ないので、置き場に行けばたいていは10台ぐらいシェア自転車が並んでいるが、1台もないこともあるし、置き場の場所が何度も変わってしまい、見つけるのに苦労したこともある。
「ポートの場所が何度も変わってしまう」としているのは(自分の知る限り例は無いけれど)、施設側の理由によってやむを得ないケースがあるのかも。
ただ「ポートの位置が変わる」ことよりも、個人的には「初見でポートが見つけにくい」という方が問題のように思う。
と言うのも、原則として歩道上にはポート設置ができないため、基本的には商業施設の駐輪場であったり、オフィスビルの一角にポートが設置されるけれど、ポートは必ずしも見つけやすい場所にあるわけではないので、特に初めて利用するポートでは「近くにポートがあるハズなのに見つからない」というケースはよくある。
ただ、この点についても「ドコモ・バイクシェア」のアプリ内で表示される駐輪ポートの画像から、ある程度のヒントを得ることができることは、記事中では紹介されていない。(反対に、Mobikeは駐輪ポートに関する詳細な情報は表示されない。)
■ドコモ・バイクシェアの公式アプリ内に表示されるポート情報(画像つき)
※ドコモ・バイクシェアの公式アプリも、改善の余地は多いにあると思うけれど…。
■Mobikeの公式アプリ内に表示されるポート情報(ポート画像なし)
「Mobikeは5秒」は本当?
冒頭で紹介した記事の中では、「Mobikeなら5秒程度で完了する手続」(恐らくQRコードをかざしてレンタルの手続)という一文が紹介されている。
どうもドコモのおじさんたちは、日本人は携帯電話やスマホをプチプチ押すのが好きだ、押す回数が多ければ多いほどみんな喜ぶという前提でこの仕組みを設計したとしか思えない。その結果、モバイクなら5秒程度で完了する手続きがドコモだと1分以上かかってしまう。
この一文が正しいのか?を検証するために、実際に日本国内で唯一Mobikeが提供されている札幌市にて試してみたところ、筆者が試した限りではどう頑張っても5秒でMobikeの解錠は行えなかった。
以下の動画は、Mobikeアプリの起動→QRコードを読み取り→解錠の様子を撮影したもの。
動画をプロセス毎に必要となる時間を分解すると以下のようになる。
(1)アプリの起動:約3秒
(2)「ロック解除」をタップするまで:約1秒
(3)MobikeのQRコードにスマホを移動:約1.5秒
(4)QRコードの読み取り完了:約1.5秒
(5)ロック解除が完了するまで:約4秒
仮に、アプリがバックグラウンドで一時停止の状態となっており(1)のプロセスに必要な時間を0秒だとしても、(2)〜(5)までの間に約8秒の時間を要している点や、実際には各プロセスにもっと時間がかかるケースも多々あることを考えると、単純に「Mobikeなら5秒程度でドコモ(バイクシェア)だと1分以上」とするのは、現実に即した内容とは言い難い。
→「アプリの起動を含めると、どう頑張っても10秒前後を要し、平均的には15秒」が妥当かと思う。
Mobikeは中国発のサービスであるため、仮に(5)のプロセス(QRコードの読み取り完了〜ロックが解除されるまで)の間が、中国大陸では1秒程度で完了したとしても、アプリの起動からQRコードの読み取りが完了までの間に7秒程度を要していることを考えると、「どう頑張っても10秒はかかる」というのが現実なのではと思う。
なお、参考までに中国大陸の都市(深圳)にてMobikeをロック解除した際の動画は以下。
日本(札幌市)と同様に、ロック解除だけで約4〜5秒を要しており、中国大陸でも「アプリ起動からロック解除完了までを5秒で終わらせる」のは、やはり非現実的と思える。
→ただし、都市によってはロック解除までの所要時間が「もっと短い」という情報もある。
Mobikeは2タッチ、ドコモ・バイクシェアは20タッチのウソ
私が中国で利用しているモバイク(Mobike)の場合、登録したあとで、実際に自転車を利用するにはスマホを2回タッチするだけでよい。すなわちアプリを起動し、QRコードを読み取るボタンをタッチし、スマホのカメラを自転車に印刷してあるQRコードに向ける。これで自転車が解錠され、乗車できる。
確かに、Mobikeの自転車をレンタルする際の手続はカンタンで、スマートフォン向けのアプリが利用されることを前提に、非常にシンプルな操作でレンタルが行えるようになっている。
(ドコモ・バイクシェアのように「一時駐輪」という概念が無いのも、レンタル・返却操作がシンプルになっている理由と思う)
ただし、ドコモ・バイクシェアに関する説明については「実際にその手続で借りているユーザがいるの?」という方法を紹介している。
ドコモ・バイクシェアの場合、まずブラウザを立ち上げ、自転車シェアリングのホームページを開き、IDとパスワードを入力してログイン、自分が今いる区と置き場を選び、目の前にある自転車と同じ番号をタッチする。すると「貸出手続き完了」というメールがスマホに届き、そこに書かれてある4桁のパスコードをシェア自転車に備わっているテンキーに入力することでようやく自転車が解錠される。ここまで至るのにスマホを20~30回タッチし、メールを受け取り、自転車のテンキーも押さなくてはいけない。
ドコモ・バイクシェアのサービスは、カンタンに自転車をレンタルするために、FeliCa搭載の交通系ICカードやスマートフォンなどを「会員証」として事前登録しておけば、スマートフォンなどなどの操作を行わずに、自転車をレンタルすることが可能。ある意味で「0タッチ」で自転車をレンタルすることができる。
おサイフケータイを使ってドコモ・バイクシェアの自転車を「0タッチ」でレンタルする(動画)
■FeliCa搭載の交通系ICカードや、自転車シェアリング用のカードを使ってのレンタルも可能
そもそも「会員証」を登録するまでのフローが面倒。であったり、ドコモ・バイクシェアのWebサイトがiモード端末でも対応可能とするために、結果的に新しい端末では使いにくい、日本語/英語表記が併記されておりわかりにくい。という点は大いに同意するので、この点については今後の改善に期待したいところ。
また、ドコモ・バイクシェアのサービスでは「自分の居場所(現在地)と、ポートの場所を同じ地図上に示すことができない。」としているものの、この機能は公式アプリにて提供されているので明確な誤り。
現在地とポートの位置情報を一画面に表示する機能は、ドコモ・バイクシェアの公式アプリでフツウに提供されている。
置き場をスマホの地図上に示す機能はもちろんあるのだが、自分の居場所と置き場の場所を同じ地図上に示すことができない。そのため、二つの地図を交互に開かざるをえない。モバイクの場合は、自分とモバイクのシェア自転車の場所が同じ地図上に示されるので、視野の範囲にモバイクの自転車がなくても5分程度のうちに見つけることができる。
■ドコモ・バイクシェア公式アプリのポート表示
敢えてドコモ・バイクシェアの公式アプリを紹介していないのか、利用している機種がiモード端末などで、スマートフォン向けのアプリケーションを紹介することができなかったのか、理由は不明ながら、ドコモ・バイクシェアの公式アプリを紹介していないのは不自然。
ドコモ・バイクシェアの公式アプリは以下にて。
Google Playでのダウンロードは以下にて。
ドコモ・バイクシェア ポートナビ – Google Play の Android アプリ
App Storeでのダウンロードは以下にて。
ドコモ・バイクシェア ポートナビを App Store で
ドコモ・バイクシェアの公式アプリに関して言えば、マップ上に表示されるポート情報からは、レンタル可能な自転車の台数がわからないとか、返却可能なポートがあるのかわからないとか、予約を行おうとすると、アプリ内で操作が完結せずに(使い勝手の悪い)Webサイトで操作を行う必要があるとか、そういった不便さを感じることはあるけれど、「現在地とポートマップを一覧表示できない。」とするのは明確な誤り。
「ドコモ・バイクシェアの利用件数は年間55万件」のウソ
Mobikeとドコモ・バイクシェアの利用件数を比較する中で、「ドコモ・バイクシェアの利用件数が55万件」とするデータが紹介されている。
一方、東京の前に横浜、仙台、神戸、広島などで自転車シェアリング事業を展開してきたドコモの場合、2014年度には2500台を配置し、55万件の利用があったという(海老原昭「ドコモがサイクルシェアリング事業に参入した理由」『マイナビニュース』2016年5月6日)。
ここで紹介されている「55万件の利用があった」とする2014年度は、区を跨いで自転車をレンタル・返却できる「広域実験」が開始(2016年2月)される前のデータであり、広域実験が開始後の2016年度の実績では、約180万回へと急増している。
都内7区に広がる自転車シェアリング。利用回数3倍のワケは? その裏側を探ってみた | スーモジャーナル – 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト
「2015年度の利用回数は約66万回でしたが、2016年度は約180万回と3倍近くに伸びています。2017年度は増加傾向が続いています」とドコモ・バイクシェアの小澤さんはいう。
「Mobikeに比べてドコモ・バイクシェアの回転数が低い」という点については異論は無いし、ドコモ・バイクシェアが提供するサービスでは、エリア毎にユーザ登録を行わないとサービスが利用できない(東京でユーザ登録済みでも、広島や神戸で利用できない)仕様をどうにかして欲しい。といった指摘には強く同意するものの、ドコモ・バイクシェアの利用件数については古いデータを紹介するなど、意図的に利用件数を小さく見えるようなデータで紹介したのでは?という印象。
個人的には、ドコモ・バイクシェア系のサービスとMobikeを比べてどちらか一方のみが非常に優れているとは思っていないし、結果的に後から参入するMobikeが、ドコモ・バイクシェア系のサービスを駆逐する可能性もあり得るとは思う。
ただ、ここで紹介している記事の内容については、事実とは言い難い内容を元に「自転車シェアリングが日本で失敗する理由」としているので、それはちょっと違うだろう。ということで。